番犬男子





厳重に鍵がかかっていたパンドラの箱がぶち壊されて、箱にぎゅうぎゅうに押し詰められていた欠片が、一気に俺の中をかき乱す。



ズキンッ、ズキンッ。


涙も、痛みも、なくならない。




幻覚ではない、忘れ去られた遠い記憶。


俺は、……俺は。


何をしたんだ。




「お兄ちゃん」



千果の小さな手が、俺の頬に触れた。


恐る恐る涙を拭う、たどたどしい手のひらが温かくて、思わず「千果」と呼び返していた。




知ってる。

この懐かしい、感じ。


知ってる。

『お兄ちゃん』と呼ぶ、その声。


知ってる。

千果の背中に残る、傷痕。




俺は、確かに、知っている。




またズキンッ!!、と落ちてきた衝撃で、目を固く瞑った。


閉ざされた瞼の裏の暗闇に、涙で潤んだ過去が切なく目醒めた。