番犬男子





これは、何の感情を乗せた涙なんだろう。


わからない。

何もかも。



ただ悲しくて、苦しくて、懺悔したい思いが身体を侵食していた。



「やだ、泣かないで」


「千果……」


「お兄ちゃんは苦しまなくていいんだよ」



なんで千果は、俺が苦しんでることがわかるんだよ。


俺はわからないことだらけだっていうのに。





『っ!!』


『千果……!』




ハッ、と乾いた息が漏れた。


頭の中をガンガン叩きつけられてるみたいな感覚が、神経を支配する。



今の、は。


――知ってる。


そうだ。

初めてなんかじゃ、ない。



ボロボロ涙が流れて、額の傷痕が疼いて、まるで雪に埋もれてるかのように温度が凍てつく。