「あのねお兄ちゃん、これは……」
いつの間にか雪乃の手が下ろされていて、千果が椅子を回転させながら俺のほうを向いた。
全て紡がれる前に、千果の目が見開かれる。
「おにい、ちゃん?」
おかしいな。
ぼやけて霞んで、千果の顔がはっきり見えない。
「どうして、泣いてるの?」
「え……?」
瞬間、ツー、と目の渕から輪郭をなぞって、冷たい涙がこぼれた。
なんだ、これ。
なんで、俺、泣いてるんだ?
戸惑いを積もらせている間にも、涙は絶えず頬を濡らしていく。
手の甲でいくら強く拭っても、涙は枯れてはくれない。



