番犬男子





あたしを想って、そんなに怒ってくれてるんだよね?


ねぇ、そうでしょ?お兄ちゃん。



裂かれた傷の痛みより、胸がギュゥと苦しくなって、嬉しさで涙がたまる。




「俺、さっき言ったよな?ケンカに拳以外を使うやつ、嫌いだって」


「俺は拳以外でもいいけど……」


「なに!?稜、お前どっちの味方だよ!」


「アスちゃん、ロウちゃんの話を最後まで聞いてあげて」



興奮気味の遊馬を雪乃がやんわりなだめて、稜に続きを促した。



「けど、普通に頭に来たし、手加減なしで殺ることにした」


「そうよねぇ。容赦なく、どころじゃないわよね。死んだほうがマシだって思いたくなるくらい、徹底的に殺っちゃいましょうか」



一見通常運転に思える雪乃だけれど、仲のいい人ならわかる。

雪乃は静かに激昂している。


男口調じゃなく女口調で話していることに気づいていないほどに。




「挑んできたのはそっちなんだから、逃げんじゃねぇぞ?」



遊馬は嗤って、足元にちょうど転がっていたナイフの刃を足でバッキバキに砕いた。