一度さらわれた経験があるせいか、あたしは不快感を除けば至って冷静だった。
あたしに触るな。
殺気に似た何かを感じ、強盗犯は目を剝く。
あたしは咄嗟に担いでいたリュックを下ろし、ショルダーベルトを握り締める。
遠心力を利用して、強盗犯のほうにリュックを思い切り投げた。
「っ!?」
お兄ちゃんがパトロールを終えるまでの退屈しのぎに、お茶の美味しい淹れ方について記された分厚い本を2冊リュックに入れていたおかげで、威力は抜群。
よっし、強盗犯の手が離れた。
あたしはリュックを放ったまま、全速力で繁華街に走っていった。
放課後の繁華街は、やけに賑わっている。
人口密度の高いこの人だかりを、今日ほど喜んだことはない。
ネオンで彩られた栄える繁華街を、混雑に紛れながら進んでいく。



