番犬男子





もしも、記憶のない今も、お兄ちゃんが気づいていないだけで、心のどこかで傷つき続けていたら。


もしも、全部思い出して、今まで押し殺して耐えてきた苦しみが、一気にお兄ちゃんを襲ったら。



あたしが“傷”を癒すから。


だから、兄として、妹のあたしを信じて。




「千果、どうかしたのか?」



お兄ちゃんがあたしの名前を呼んでくれて、嬉しい、のに。


どうしよう。

うまく笑えないや。



「まるでお前がこの傷をつけたみてぇに、辛そうに……」


「そうだよ」


「え?」



わざとだった。


わざと、お兄ちゃんの声を遮った。




「あたしのせいで、負った傷なの」




ごめん……ごめんね、お兄ちゃん。