番犬男子





湯飲みをテーブルに置いた右手は、自然とお兄ちゃんの額の傷痕へと伸びていた。


触れる直前で、ピタリ、止める。



あたしが触れてもいいのだろうか。




「ん?」



間近に迫ってきていたあたしの手を不思議に思ったお兄ちゃんが、急に元気をなくしたあたしの顔を覗き込むようにして声をかけた。



「どうした?」


「…………」


「千果?」


「……おにい、ちゃん」



再び、優しく「ん?」と問われる。


ぎこちなく右手を下ろし、膝の上で拳を握った。




「その傷、もう痛くない?」


「傷?……あー、これか。痛くねぇよ」


「そっか」



なら、いいの。


痛くないなら、それで。