番犬男子





お兄ちゃんが喜んでくれて嬉しくて、ニヤけてしまいそうな口元を必死に引き結んだ。



家に帰ったら、また淹れてあげようかな。


おばあちゃんにも、美味しい番茶を飲んでもらいたい。




内心ハイテンションに騒いでるあたしの横で、お兄ちゃんはいつものポーカーフェイスをわずかにほころばせて、賑やかな雰囲気に溶け込んでいた。




無愛想でも、あたしにはわかるよ。


お兄ちゃん、すごく楽しそう。


お兄ちゃんが楽しいと、あたしも楽しい。




お兄ちゃんの端整な横顔を、うっとり眺めていると。


なんとなく、お兄ちゃんの額に刻まれたイナズママーク形の傷痕に目が留まった。



さっき稜の話を聞いたばかりだからかな。


心臓が締め付けられて、鼻の奥がツンとなる。




あたしのことも“あの日”のことも忘れている今は、短い前髪では稜みたいに隠せない痛々しい傷痕を、意識していない。



だけど、じゃあ、記憶が戻ったら?


そしたら、お兄ちゃんは額の傷痕に苦しむの?



……それは、嫌、だなあ。