「稜は、その幼なじみの子が、好きなんだね」
「……ああ、好き“だった”」
照れてはぐらかされると踏んでいたのに、わざとらしい過去形で答えられ、つい口ごもってしまう。
言葉とは裏腹に、稜の横顔は切なく歪んで、あきらめきれていないことが明々白々だった。
いや、あきらめるとか、後悔とか、そんな話じゃないのかもしれない。
お兄ちゃんが記憶を封じたように、稜もまた、自分の想いを封じ込めたのではないのだろうか。
傷ついた心ごと。
「あんなことが起こらなきゃ、きっと今でも……」
「あんなこと?」
稜は自嘲じみた笑みを浮かべた。
「中一の時、あいつとぶつかってよろけた拍子に、近くにあった机の角に顔……特に左目あたりを強く打っちまったんだ。そのせいで、左目から血が出て、視力を失った」
灰色の前髪をくしゃり、と力なく掴む。
そよ風が横切って、肌寒さに唇がかさつく。
「もちろん、ぶつかったのはお互いにわざとじゃなかったし、不注意が原因のただの事故だった」
一拍置いて、かすれた声で紡がれる。
「だけど、あいつは、自分を責めた。自分が視力を奪った、自分のせいだ、っつって。……違ぇのに」



