番犬男子






傷ついたのは、あたしよりお兄ちゃんで。


あたしのせいで、記憶に鍵をかけた。


残ってしまった傷痕に、苦しみながら。



『ごめん……っ』



やめてよ。

どうしてお兄ちゃんが謝るの?




泣かないで、お兄ちゃん。






「俺は、ある。けど、俺もあいつを、傷つけた」



あたしの返答を待たずに、稜はたどたどしく唇を震わせた。


“あの日”の記憶から我に返って、稜を見つめる。



あいつって、誰?



「俺の目は生まれつきオッドアイで、よく周りに気味悪がられてた。でも、全然気になんなかった」



無関心、とは、ちょっと違う。


まるで。



「俺には1人、幼なじみの女がいて、あいつだけは俺の目を綺麗だって言ってくれてたから」



そう、まるで、稜の言う「あいつ」だけが稜の全てのよう。


「あいつ」がわかってくれているなら、他はなんでもいい。



無関心、ではなく、一途な純情。