どちらともなく、歩くスピードが遅くなっていく。
比例して、空気が張り詰めていった。
稜の左目は、視力が低いんじゃなく、視力が0。
何も映らない。
それなのに、メガネをかけている。
「その丸メガネは伊達【ダテ】?」
「あ、ああ」
この空気を和らげるために突拍子もなく、答えを確信している質問をしたら、案の定当たっていた。
モノクロな左の瞳を、厚めの前髪と、度の入っていないメガネを隔てて守っている。
そこに、どんな秘密を忍ばせているの?
「……お前は、誰かに傷つけられたこと、あるか?」
少しして、今度は稜から、やけに歯切れ悪く問いかけられた。
ドクン、と心臓が縮こまった。
『っ!!』
『千果……!』
銀世界に埋もれた“あの日”に、否応なく感覚を支配されて。
雪色になった指先が、凍る。



