番犬男子








人気がなくなった路地裏。


重さの違う足音と、茶葉の入った袋が擦れる音が響く。




無傷の稜の横で、先ほどの不良が言っていた噂を想起した。



『お前の左目、見えねぇんだってな』



濃い褐色の右目とは異なり、綺麗な赤色に彩られた、稜の左目。


いつも、左目は前髪に覆われている。



てっきりあの不良に左目のことを言われて、少しは冷静さを欠くと思っていたけど、そんな素振りは皆無だった。




じゃあ、どうして。


あたしが初めて稜の左目を見た時、あんな悲しそうな表情をしたんだろう。



『何も聞いてこねぇんだな。この左目のことも、隠してる理由も』




なんの確証もないのに。


あの時聞かなかった、稜が隠してる全てに今この瞬間触れて……ううん、触れなくちゃいけない、とあたしの中の何かが叫んでいた。