番犬男子





お兄ちゃんが新選組の刀を盗んだ犯人を取っ捕まえたのは、お兄ちゃんが高校生になりたての春頃。


新聞にも載った影響で、『侍』という異名がものすごいスピードで広まったのだろう。



「総長はあっという間に不良を倒して、女子を助け出した。その姿がかっこよくて、強く憧れた」


「お兄ちゃん、かっこいい!!」



聞く必要がなかったってさっき独白したけど、前言撤回。


お兄ちゃんのかっこいい場面を聞けてよかった!



きゃっきゃっとはしゃぐあたしとは対照的に、幸汰はもどかしそうに弱々しく同意した。



「幸汰?どうしたの?」


「本当に総長はすごくすごくかっこよかった。……そう、思うと同時に、何もできなかった自分が不甲斐なく感じて、落ち込んだんだ」



まだ伏し目がちな幸汰の目が、ゆっくりあたしをなぞった。


なに?



「……てっきり千果さんはこの話を聞いたら、僕を責めると思った」


「はあ?」



なんでよ。


思いっきり顔をしかめたら、幸汰はすぐさま目を逸らす。