番犬男子





後ろを向いて調理台に寄りかかるように手を置いた幸汰は、優しく瞼を伏せた。


きっと、瞼の裏には、幸汰の思い出深い記憶が映されているのだろう。




「去年の春、繁華街の路地で、1人の女子が不良に絡まれてたところに、偶然出くわしたんだ」



おもむろに語り出す、幸汰の過去。



去年ってことは、中学3年生?


思ったより最近の出来事で驚く。


たった1年で、双雷の幹部になったの!?

うわお、アメージング。



「その女子はクラスメイトでさ、知り合いだったから余計に助けたくて……でも、助けようと思うほど怖くて足がすくんじゃって……」



幸汰は悔やむようにグッ、と唇を噛んだ。



平凡な日常の中でイレギュラーなことが起こると、途端に冷静さを失う。


あたしだってそう。



誰もが無意識のうちに“当たり前”を求めてる。




「そんな時だったんだ」


心なしか、声音のトーンが高くなった。



「当時から『侍』と呼ばれてた総長が現れたのは」