番犬男子





でも、唇を真一文字に結んで、涙をこらえる。



泣きたくない。


こんなに幸せなのに、泣いてたらもったいないもん。



こういう時は、笑いたい。




「じゃあ、好き?」


「好きでもねぇ」


「えー!?」



そこは「好き」って言ってよ!


そう文句を口にしながらも、表情は朗らかに咲かせている。




「立ち直ったみてぇだな」


「ん?なあに?」


「いや、なんでもねぇ」



撫でるのをやめてあたしから手を放したお兄ちゃんは、いつもの不愛想な顔つきの裏で、密やかに心を和【ナ】いでいた。




「行くぞ」



背を向けて、再び歩き出すお兄ちゃんを、「うん!」と笑顔で追いかけた。