番犬男子






「今日もたまり場に来るわよね?」



女口調で色っぽく囁かれ、不覚にもドキッとした。



「もちろん!」



行くに決まってるじゃん。


お兄ちゃんのそばにいられない、1分1秒が惜しい。



「待ってるわ」



あたしにしか届かない小さな声で、秘密の約束を交わすように耳打ちして微笑んだ。




「それじゃあ、“僕”はそろそろ行くよ」


「あ、うん」



口調を戻した雪乃は、あたしに背を向けた。


もうすぐ終わる昼休みにドタバタしている周りをよそに、ゆっくり手を振る。



「またあとでね」




結局、さっきの言葉の意味を聞くことができないまま、雪乃はこの場をあとにした。





雪乃が去った後。


わざわざ耳打ちをした雪乃のファインプレーにより、野次馬たちは、あたしと雪乃が破局寸前の恋人だという関係は誤解だと察してくれた。



その代わり、ファインプレーが裏目に出て、新たな誤解が生まれてしまったみたいだけど。