今回の移動は、強盗犯とバイク男に悟られぬよう近づく必要があるため、うるさいバイクではなく徒歩。
その分行き来に時間はかかるが、仕方がない。
こんなふうに、幸汰とがっつり2人きりになるのは、初めてだ。
しかも、会話がない。
緊張というか……き、気まずい。
「ね、ねぇ、幸汰」
「なんですか、千果さん」
浮かんだ話題を提供しようとしたけど。
その前に。
「敬語」
「え?……あっ」
「はい、もう1回」
「な、なに?」
幸汰がこそばゆそうに言い直す。
よし、合格。
本当は、同い年なのにさん付けするのもやめてもらいたかったけど、敬語に慣れすぎてタメ口にキャパオーバー気味だったから、許してあげた。



