「お兄ちゃん」



もう1回、愛おしむように呼ぶ。




「さっき、あたしの名前呼んでくれたよね?すごく嬉しかったよ」


「…………」


「なかったことにしようとしてたでしょ?」


「……チッ」



舌打ちしても無駄ですー。


とっくにあたしの脳内フォルダに永久保存したもん。


忘れないよ。




「また、呼んでね」



お兄ちゃんは、何も返さなかった。


それがお兄ちゃんらしくて、小さく笑う。



絶対だよ?


約束、だからね。




わがままな約束を心の中で一方的に交わして、お兄ちゃんのたくましい背中に頬を寄せる。





いつか、お兄ちゃんが全てを思い出して、あたしの記憶を取り戻したら。



きっとあたしは泣いて、とめどなく泣いて。


そして、伝えなくてはいけない言葉を伝えるだろう。




――「ごめんね」って。