【短編】鬼神の森

 そうして。

 どこにも行くところのないサヨは。

 獣と、一緒に暮らすことになった。

 昼間。

 サヨは、獣を毛皮を欠けた、櫛で梳いて。

 夜になると。

 獣が僅かな食物をどこからか調達して来た。

 食べる物は、いつも少なく。

 サヨも、獣も飢える寸前だったが、それでもサヨは、幸せだった。

 獣は、とても優しく、サヨを抱きしめてくれたから。

 サヨも、心を込めて、獣の毛皮の手入れをしたので、ぼさぼさの毛の塊だった獣は。

 見るまに、黒光りする綺麗な毛皮を手に入れた。

 そうやって。

 人里離れた古い祠で、サヨと獣は、ささやかな幸せを手に入れた……はずだったのに。

 騒ぎは。

 サヨが獣の元に来てから、ひと月も経たないうちに、起きた。

 獣が、サヨと喰うわずかな食物を、人里の納屋からかすめ盗っていたのが、露見してしまったのか。

 獣の見事な毛皮を売って、迫り来る冬の備えを買う気になったのか。

 ……その両方なのか。

 ある夜、獣は。

 村人に追われて、祠の中に、飛び込んだ。

 ただならぬ気配に目覚めたサヨが、祠の窓から、様子を見れば。

 闇を照らす松明が、長い列を作って、こちらに向かって来る所だった。

 その、獣を狩ろうとする村人の多さに、サヨは、首を振った。