【短編】鬼神の森

 祠の窓から外を眺めれば。

 倒れた、母の身体は、無く。

 代わりに、野の花の捧げられた、小さな土山があった。

「お前が……
 母ちゃんを埋めてくれたの?」



 ぐるるるるる…………


 寂しそうに、獣が喉を鳴らした。

「……ありがとう」

 鬼神の優しさが、心に染みて、嬉しかった。

 サヨが、涙をぽろんと流すと。

 獣は、心配そうに、サヨに近寄って来たものの、困ったように、首を傾げた。

 獣が、動くたびに、身体に貼りついた小枝が、がさがさと音を立てる。

 それに気がついてサヨは、行李から歯の欠けた櫛(くし)を取り出した。

「おいで?
 ……礼に毛皮を梳(す)いてやるから」

 サヨの申し出に、獣は、嬉しそうに微笑んで……毛むくじゃらの手をおずおずと出した。