「お母ちゃん!!!」

 サヨの悲痛な叫びに、母は、うっすらと目を開けた。

 そして、懐(ふところ)から、粗末な食物をサヨに手渡し、ささやいた。

「これを……」

 母の手から、ぽろぽろとこぼれる、しなびたイモをサヨは、拾って抱きしめる。

 母がサヨの為に命駆けで持って来た、最後の食物だった。

「母ちゃん……!」

 サヨは、泣きながら必死に母を揺すったのに、母は、もう二度と目を覚ますことはなかった。




 ……時雨が降る。

 雨雪が降る。

 母の命の上に降る。

 そして、サヨの命の上にも。

 降りしきる時雨に、すっかり身も心も冷え切って。

 ぬくもりの欠片も無い、母の手を握りしめ。

 寒さに倒れたサヨが、目を閉じようとしたとき。

 暗い木々の奥で、何かが、がさり、と動いた。