ぽつり、地面に置くように呟いた。
古びたチャイムの音が鳴る。朝のホームルームがはじまってしまった。
「ごめん。私のせいで遅刻だね」
「そんなことどうでもいいよ」
この人は、どれだけ心が広いのか。優しすぎる。こんな人、出会ったことない。
時間が緩やかに過ぎていく。
静かになった学校。
私たちはただ座って、空を見ている。
空では鳥たちが群れて飛び、田舎の道を一台の軽トラが走り去っていく。
その道に隣接している田んぼでは、タオルを頭に巻いたおじさんたちがなにやら作業をしていた。
そんな田舎の風景に視線を投じて考えを巡らせていると、ふと有り得もしないことを思いついて、含み笑いをする。
「どうしたの?」
「いや、隼人くんみたいな人がそばにいてくれたら、私は自殺しなかったかもしれないなって……」
そんな馬鹿げたことを考えてしまった。過ぎ去った時間に、夢を描いてしまった。
自分の都合のいいように考えたって、私がいじめられたことも、私が自殺したことも変えようがない。
「……俺も、さ」
「……?」
目が合う。隼人くんって、まつ毛が長い。だから綺麗な顔に見えるのかもしれない。
「同じようなこと考えてた。ゆりにもう少し早く出会ってれば、助けてやりたかったよ。ほんとごめん……」
──出会うのが、遅くなって。
そう隼人くんは言わなかったけれど、勝手に台詞の続きを想像してしまった。だけど、あながち間違っていないニュアンスであったと、自惚れてもいいのだろうか?
自分に、自信がないから、怖いけれど。
「でも今からでも遅くないかな?」
「え?」
「ゆりに楽しいことを教えてあげたい。せめてそのカウントダウンがゼロになるまでは、笑っていてほしい」
「…………」