……ああ、もう、時間が足りない。
いくらあっても、足りない。話し足りない。伝えきれない。この胸にある気持ち全部。



「ゆり……っ、身体が……っ」

「えっ?」

「……綾瀬さんじゃない」



ふと自分の足元を見た。
肉づきのない貧相な足。ガリガリと細っこい腕。


……うそ。元の私に、戻ってる?



「あっ……」



声が漏れた。
ぽわん、と、身体が光る。比喩ではなく、本当の本当に。身体が発光しているのだ。直感的に「もう消えるんだ」と悟った。


咄嗟に隼人くんを見る。泣いていた。


私は変わった。私がいなくなることで、泣いてくれる人がいる。


もう、十分だ。



「嫌だ。ゆり。いなくならないでくれ……っ」

「隼人くん」



私の頬に、彼の手が触れる。



「好きだ、ゆり……離れたくない……っ」

「ねぇ、隼人くん、聞いて」

「……?」

「きみは、私の光だった。狭く暗い世界に降り注いだ光だったよ」

「……ゆりもだ。僕の光だった」



短く息を吐く。私の頬に触れている手に、自分の手を重ねた。
そしてゆっくりと、隼人くんの唇が近づいてくる。ふたりにとって、初めてのキスだった。


誰しもが、誰かにとっての光なのかもしれない。
いじめてきたあの子も、美樹ちゃんだって。


じゃあ、きっと大丈夫だ。
この世界は優しい光で、溢れている。


生きている人、みんなが光そのものなのだから。
きっと、わかりあえる。


星の光が私の身体めがけて集まってくる。
身体が浮いた。
そして、たくさんの光に包まれたかと思うと、一瞬にして散った。


さよなら、隼人くん。


私の人生は、とても幸せでした。


最後にきみに、出会えたから。恋が、できたから。


生きたいと、思えたから。