リボンと王子様

触れた唇はすぐに離れて。

千歳さんは私をギュッと胸に抱きしめた。

胸にあたる愛しい身体。


唇に残る僅かな余韻。

ドクンドクン……速い鼓動が聞こえる。


それが私のものなのか、千歳さんのものなのかわからなかった。


ただ。

私は今、大好きな人の腕の中にいた。

これは夢?

千歳さんが私を好き……?

そんな奇跡、もうある筈がないのに。



懐かしい千歳さんの香り。

私を呼ぶ耳朶を震わせる声。

その温もりを。

どうして忘れられるなんて思ったのだろう。

どうして諦められるなんて思ったのだろう。



こんなにも私の心は千歳さんでいっぱいなのに。



「……謝らなくていい。
元はと言えば、母さん達が言い出したことだろ。
穂花の性格や立場を考えたら断ることができないのはわかっていたことだし。
それに……」


少しだけ私の身体を離して、千歳さんが私を覗き込んだ。


その瞳に浮かぶのは後悔、それとも悲しみ?


「……穂花が葛さんだってわかった時に、俺が言い出していたら良かった。
四年前の女性をやっと見つけられた、そのことに有頂天になって、穂花を俺のものにすることだけに必死になって……」


そう言って自身の口を手で覆って私の肩に顔を埋める。

微かに見える耳がほんのり赤い。