リボンと王子様

視界に千歳さんの靴が見えた。

スーツ姿の千歳さんの、見慣れたピカピカの黒い革靴。

その靴を履いた足が私に近付く。


一歩。

また一歩。

私との距離をつめる。


反射的に後退する私。

感情の読めない闇色の瞳に魅入られて、動けなくなる。


私の左手首をふいに千歳さんが掴んだ。

手首に触れる大好きな人の指。

彼の温もりを感じる。



ただそれだけで。


心臓が壊れそうに大きな音をたてる。


ああ、この人は。

私をこんなにも簡単に籠絡させる。

私の心を揺さぶって、決意をグラグラに揺るがせる。

……忘れなければいけない人なのに。



触れられた手首が熱い。



ソッと千歳さんの指が離れた。


「……え?」


思わず声が洩れる。


私の左手首には白いリボンが結ばれていた。


「……穂花のリボンだから。
ずっと返したかった。
あの日、俺を救ってくれた穂花に。
なあ、穂花。
俺はあの日からずっと」


そう言って千歳さんは私の瞳を覗き込む。

誰をも魅了する漆黒の瞳に私が映る。



「……穂花だけを好きだよ」



優しい声が胸にジワリと沁みこんだ。