「夕ご飯食べた?」

「まだ」

「鶏の治部煮作ったけど食べる?」

「食べる!」


そう言って千歳さんは嬉しそうに笑う。

無邪気な笑顔に胸がキュウッとなる。



意外にも千歳さんは和食を好む。

仕事が終わる時間が比較的遅いせいもあり、食事を作ってほしいと言われることは殆どない。

それは『お手伝いさん』としても言われていた。


だけど。


外食が多い千歳さんの食生活が気になって、早く帰れる日には食事を作りたいと話してみたところ。

私の負担を考えて遠慮していたけれど、珍しく食い下がる私に根負けして。

無理のない範囲で、という条件付きで了承してくれた。



「……ヤッパリ美味いね、穂花の料理は」



部屋着に着替えて治部煮に舌鼓をうちながら、千歳さんが言った。


「本当に?」

「うん。
美味い。
何て言うか……ホッとする。
穂花らしいやさしい味付けで。
自宅に帰ってきたんだなって気がしてさ」


千歳さんが食べる姿を見ることが好きだ。

背筋をピンと伸ばして。

綺麗な箸使いで食事をする千歳さん。


「……幸せだなって思う」


夜色の瞳が魅力的に輝く。

その微笑みは、いつも私を簡単に魅了する。

目映い笑顔を直視できずお茶碗を手に取る。


「何で目、逸らすの?」


わかってるくせに、聞いてくる。

一緒にいてわかったこと。

千歳さんは意外と意地悪だ。

私が恥ずかしくなって、困っている姿を見て楽しんでいる。


「穂花、耳、真っ花」


そう言って私の耳に長い指で触れる。

触れられた部分が更にジンジンと熱をもつ。


「顔、見せてよ」


……見せられるわけがない。

動揺を悟られたくなくて、ご飯が入ったお茶椀をそっとテーブルに置く。