宵の朔に-主さまの気まぐれ-

「じゃあ父様、母様、行ってきます」


「暁、正式に当主となったお前は先頭に立ちつつも仲間を守らなければならない。できるか?」


「できますよ、父様の心配性」


――成長した暁は、赤と黒の目の色をくるくる変えてくるんと回って新調した緋色の羽織を翻した。

残念ながら背は両親に似ずそんなに高くはならなかったが、目が眩まんばかりの美女…いや、可憐さの方が上回っているが、目が素通りできない美貌に無邪気な笑みを浮かべて天満に駆け寄った。


「天ちゃんも一緒に行こ」


「いや、僕はお前が戻って来るのを待つよ。大切な初日だけど肩の力を抜かないと思いも寄らないことになるかもしれないから気を付けて」


「みーんな心配性」


庭には集結した百鬼と、集結した朔や輝夜など屋敷に住む者が勢ぞろい。

暁の腰には天満から譲り受けた二振りの刀が差してあり、暁の両隣を白雷と氷輪が固めて盤石に見えたが、朔たちは気が気ではなかった。


「お姉ちゃん、やんちゃして怪我しないようにね」


「うるさいな、お姉ちゃんはちゃんとできます。できる子なんだから大丈夫」


「暁ちゃん時々ぜんぜんできない子になるから本当に気を付けて下さいよ」


「ちゃんとできるってば。ちゃんとします!だからもうお小言はやめて!」


縁側から弟と輝夜の長男に茶化されて頬を膨らませると皆が笑い声を上げた。

暁は豊満な胸元に手を突っ込んで夜叉の仮面を取り出して、朔によく似たにっこり笑顔で顔に装着した。


「いよっ!夜叉姫のお出ましでい!」


「夜叉姫ー!なんて素敵なんだ―!抱いてー!」


轟々と歓声が沸いて腰に手をあてて彼ら百鬼を見回している暁を見て、凶姫はじわりと涙ぐみながら朔の腕に抱き着いた。


「あの子ちゃんとできるかしら」


「本人が希望するようになってから百鬼夜行には連れて行ってたし、実力も全く問題ない。それにあの盛り上がりを見ろ、俺の時の比じゃないぞ」


「あなたはもう隠居の身だものね。でも駄目よ、あの子が所帯を持つまで私ここから離れないんだから」


「俺も」


「じゃあ本当に行ってきます。みんな!行こう!」


「応!!」


――今夜も百鬼夜行が空を行く。

暁の放つ青白い鬼火に彩られて軌跡を描きながら、空を行く。


朔は凶姫の手をしっかり握って、姿が見えなくなるまで見送った。


「さて、暁の武勇伝を楽しみにしながら酒でも飲み交わそう」


「いいですねえ、兄さん勝負しましょう」


彼らの物語は、終わらない。

次世代に夢を馳せつつ、今夜も明日も未来永劫、人と妖の懸け橋となるため百鬼夜行は脈々と受け継がれ、夜空を駆けてゆく。


【完】