朔の浴衣は上半身がほとんど裂けて、ほぼ半裸の状態だった。

椿はかつて朔と蜜月の関係だった時いつもこの身体に見惚れていたが、あの頃よりも格段に男らしくなった身体に恍惚とした表情で指を組み合わせて睨み合った。


「ああもうすぐお前は私のものになる…!」


「…残念ですが、それはありません」


朔の爪が伸びて椿の肌に食い込み、生気を失って青白い顔の椿に寂しげに笑いかけた。


「あなたを尊敬していました。去って行った後喪失感を拭えなかったのも確かですが、あれ以上俺はあなたに与えられるものはなかった。師匠、あなたが安らかに眠れる場所へ行けることを願っています」


「私が安らかになれる場所はお前の隣だよ、朔」


「俺の隣にはもう芙蓉が居ます。あなたが戻って来る場所はここじゃない。墓場ですよ」


目を見開いた椿の牙が伸びて首筋目掛けて食らいつかんとしてきた時、朔は顎目掛けて掌底を真上に突き上げると、椿の身体が衝動でふわりと浮いた。


安らかに――


そう願い、椿の両頬を手で包み込んだ朔は、そのまま椿の首を左に速く回転させると鈍い音と共に首の骨を折り、椿がゆっくりと地面に倒れ伏す。


常人ならば、即死のはずだった。


だが椿の身体は蠢き、捩じられた首のままゆっくり仰向けになって手を伸ばした。


「さ、く…」


「…輝夜、刀を」


「はい」


天叢雲を手渡した輝夜の手には力がこもり、それを感じながら鞘から刀身を抜いた朔は、静かに椿を見下ろした後、心臓に切っ先を向けて儚く笑いかけた。


「今度こそさようなら、師匠。あなたのことは、二度と忘れません」


「……弟子に殺されて、本望だよ…朔…」


最期のその言葉は真実か強がりか――


刀を突き立てた朔は、もう二度と動かなくなった椿の躯をしばらく見つめた後、肩越しに輝夜を振り返った。


「輝夜、行って来い」


お前の大切なものを守るために。