「…終わりが近いね」


輪の中心に座している長い金の髪に碧い目の男が呟いた。


「ここまでの道のりは決して短くはなかった。直接言いに行くか?」


「いや、私が彼らの世界に下りてしまっては理に支障を来す。お前が行ってやりなさい」


「分かった」


――輝夜が‟天使”と呼んだ金髪碧眼の男は、かつて息吹が輝夜を妊娠して流産しそうになった時啓示を持ってやって来た男だ。


元々‟天使”ではなかった男が自分たちと同じ能力を得て現代過去未来を渡り、人々を救済してきたことにいたく感銘を受け、そして彼の旅の終わりが近いことに胸を熱くしていた。


「私が奪ったわけではないけれど、彼に欠けていたものは彼に戻り、彼は選択するだろう。お前たちは寂しくないかい?」


「あいつはお調子者だけど、兄や親の話をする時は真面目だったな。いい奴だしこれからも志を同じくしてほしかったけど」


真っ黒な髪、真っ黒な目の‟天使”が歯を見せながら笑い、朱い長い髪の赤い目をした女は鼻を鳴らして吐き捨てた。


「あいつはわたしの尻を撫でるし歯の浮くような台詞を吐く。早くここから居なくなって親兄弟と戯れればいい」


「なに、それは初耳だな。別れが来たならば一発殴っておこう」


金髪碧眼の‟天使”が妻である朱い髪の‟天使”に笑いかけて、さざ波のように笑い声が皆から上がり、輪の中心に居た金髪碧眼の眩い光を放つ男は静かに目を閉じた。


「全ては彼の選択次第だよ。彼はそろそろ自身の道の選択をすべきだ。他者の道ばかりに目を向けていて、自らを省みることがなかった。だけど気付き始めた。私は、それを待っていたんだ」


――皆が頷いた。

ここへ…楽園へ戻って来る度に別れを経験してうなだれる彼を励まし、肩を抱いて寄り添ってきた。

その役目は、違う者へと託される。

彼が選択をするならば…違う者へと。


「さあ、お前の試練に立ち向かいなさい。そして、勝ち取りなさい。お前の望むものを」


彼らは選択を待っている。

静かに目を閉じて――