影喰い



「あっ……あ、……」


無数の目、瞳、め。

いくつもの目と目が合う。

そこに人がいると言うのか。こんなに人がいると言うのか。囲まれていると言うのか。

分からない。解らない。わからない。

理解しがたいこの現象に、ただただ怯えて音を口から零すしかできない。

そこに誰も居はしない。分かっている。この無数の瞳も幻覚だ。そうに決まっている。


「や、やだ……」


それなのに、皆一様に此方を“見ている”のだ。


「おいおい顔真っ青だぞ!?大丈夫か??」

「あ、あぁ……!」


サーっと血の気の引く感覚。きっと顔は青ざめていたに違いない。

だから彼だって私を心配して駆け寄って来てくれたのだ。

ギィギィ軋む音を越え、ガタガタ震える私を掴む。

それはきっと大きなお世話。


だって。


彼の背には確かに人のような何かがしがみ付いていたのだから。

また私と目が合うとそれは、ニヤリと不気味に笑ってみせた。


「いや……!いやぁぁぁぁ!!??」


それは何なのか分からない。

それでも、それが目に入った瞬間私は叫んで走り出していた。

アレはなんだ。何だったのだ。

尖った耳、笑った口に生える牙。何だあれは。

分からない。分かりたくない。

ただただアレは見てはいけない、異形の化け物だったのかもしれない。

人付き合いでこんなところに来るべきではなかったのだ。