彼女には何かが見えていたのか。
いつから?何処から?様子がおかしくなってから?何が?
問いかけたい思いもあったけれど、最低限それだけを言って俯いたまま口を堅く閉じている為、何かを言う事も出来ない。
いや、多くを語らずとも感じるのだ。
そこに誰もいるはずが無いのに誰かの目、視線。
そこに何も無いはずなのに死角になる直前の視界に黒い靄、影。
気がつけば違和感が辺りを包んでいた。
それに気づいた瞬間に私は俯いていた。それは彼女がとっているのと同じ行動で、そうせざるを得ない事が身に染みてわかった。
ギィギィと軋む床を視界に映しながら、何とか足元だけを携帯のライトで照らす。
奥に進む際に足元に危険物などなかったのは確認しているので、彼らが歩く方向、音に着いて行くだけだった。
只管に足を動かして、出口まで不要行動をせずに辿り着けばいい。
でも、ふと不安になった。本当にちゃんと出口に向かっているのか。彼らの後をついていけているのか。と。
それを確認したくなって、顔を上げた。
ゆっくり、ゆっくり、確認するように。
コツコツ、と足音を鳴らし続けて。
「!?」
その時、ゴリッと足元で嫌な感触がした。


