『これからまた、さっきみたいな場面に出くわしたら……俺でよかったら、いつでも壁にでもなんでもなるから』



辻くんにまっすぐ見下ろされながら、ああ言われたとき。正直、すごく驚いてしまった。

だって私の中の辻くんのイメージは、いつもマイペースを貫いていて、自分のペースを乱されることをすごく嫌がりそうな感じで……。

だけどあのとき、金子くんの横をどうしても通り抜けられずにいた私に──辻くんは少し緊張したような表情をしながら、そう言ってくれた。

それで私、彼のその表情を見て、思ったんだ。

きっと辻くんは……ちょっと不器用で、人にやさしくするのが下手な人で。

だけどそのことは、ふとした言動から、彼に関わる周りの人間にもちゃんと伝わっていて。

だから辻くんは、教室でもいつだって誰かに囲まれて。里見くんみたいな信頼関係を築いた部活仲間にも、恵まれているんだ。


そしてそこまで考えて……私は急に、自分が恥ずかしくなってしまった。

辻くんは、少しわかりにくいやさしさで、私のことを思いやってくれている。

なのに私はそのやさしい人に対して、勝手なイメージでこわがったり、向けてくれる感情をちゃんと見ようともしなかったり──これまでずっとひどいことをしていたんだって、改めて自覚したから。



『私はっ、金子くんのああいうお茶目なところもすきだったんだもん……!!」』



そして自己嫌悪で混乱した私がつい口走ってしまったのは、またもやひどいセリフで。

もう自分自身の失態に収拾をつけることもできず、とっさにその場から逃げ出したんだ。