辻くんと、話さなきゃって思うのに。何を話せばいいのか、わからない。

それにそもそも今のこの状況こそが、少し前まで私たちの“普通”だったのに。



『辻くん、お、おは、おはようっ』

『え、……あ、ああ。はよ』



だけど、お互いに、朝や帰りに一言挨拶を交わしたりして。



『……俺でよかったら、いつでも壁にでもなんでもなるから』



辻くんが、やさしい言葉をかけてくれたりして。


……どうして、忘れかけていたんだろう。

私は、彼女がいて手が届かない存在になってしまった金子くんがすき。

辻くんは、どうしてかそんな私を気にかけてくれていて。

それを本人から告げられてわかっているからこそ、私は彼に対してどういう態度をとればいいのか決めかねている。

そしてそんな関係は“普通”じゃなくて、すごく不安定で。簡単に、崩れてしまうかもしれないものだったのに。