加野せんぱいに初めて会った時、ものすごく驚いた。
自然な髪色なのに、少しこげ茶色で色素が薄くて、そして癖っ毛。特別イケメンってわけではないのに、整った涼しげな顔。やさしい表情。高い身長。細身の身体。
あまり加野せんぱいには言えないけど、なんというか、“大人の色気” というものが放たれているというか。とにかく、雰囲気がもう、せんぱいのかっこよさを引き出している感じだった。
こんな人と、同じ学年を担当するなんてって思った。
緊張したけど、その日のうちに心はせんぱいを受け入れていた。ほんとうに、初めからやさしかった。
「うーし、じゃあそろそろ子どもも来るから頑張りますかね」
栄養ドリンクの蓋を閉めて、「ありがとう」という加野せんぱい。
今日も、わたしの差し入れで元気になってくれるなら、本望だ。うれしい。
「今日の作文のタイトルって、自分の好きな本についてでしたっけ。思いつかない子、いそうですね」
「そうだな〜。まぁその時は、どんな子でも読んだことある話とか、そーいうの教えてあげて引き出すのもいいと思うよ。なんでもいいんだよ、とりあえず文が楽しく書ければさ」
「…、そうですね」
加野せんぱいは、先生にも向いていると思う。短時間や、隙間時間でたくさん稼ぎたいからここのバイトを始めたみたいだけど、わたしよりも全然教えるのが上手だ。
「ほんと、加野さんってこどものことよく分かってるというか…、面倒見がいいというか、接し方が色々とうまいですよね」
将来、先生になりたいと思うわたしが、ちょっと、嫉妬してしまうくらい。



