「…大事にしたいんだよ、もっと」
「うん…」
「…これからは、もっと大事にする。今日は帰るけど、また連絡するから」
「…はい、分かりました」
…“ だいじにする ” かあ。
好きな人に言われる言葉ほど、嬉しいものはない。
その言葉に深い意味はなくても、1つ1つが輝いて聞こえるよ。
「…じゃ、またね」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
加野せんぱいは、そのまま玄関に手をかけて、ドアを開けた。
寒い空気が入り込んできて、思わず目を閉じる。
「——あ、そうだ」
そして、その瞬間に、せんぱいはもう一度振り向いて言った。
「今日、夢の中でも、凰香ちゃんに好きって言われたんだよ。すげーうれしかった」
…その言葉を言い残して。
重い扉は、バタンと閉められた。
「…………、え…?」
…せんぱい、今、なにを言い残して行った…?
——“ 夢の中でも、凰香ちゃんに好きって言われたんだよ ”
「……」
——“ せんぱい、すき ”
「〜〜っ、ええ…………ッ!?」
あの告白…っ、聞かれてた…!?
「…嘘でしょ…しにたい………」
力が抜けて、足元から崩れ落ちていく。
…なんてことを、聞かれてしまったんだろう、わたしは。
——“ すげーうれしかった ”
「…っ」
でも、次に会うときの、1番の話題が見つかったな、なんて。
頭の隅では、呑気にそんなことを考えたりもしていた。