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身支度を整えて、自分の家へ帰ると言った加野せんぱいを、玄関まで見送った。

「寒いからいいよ」とせんぱいは言ったけど、どうしても、最後まで見ておきたくて。

せんぱいが支度をしている間に、急いでお湯を沸かして、余っていた水筒に暖かいルイボスティーを入れてあげた。

こんなことをしたのは、せんぱいが初めてだった。


「こんなのまでいただいてしまって、ありがとう凰香ちゃん。帰って飲むね」

「大丈夫ですよ。疲れてるんだからゆっくりしてくださいね」

「…うん」


せんぱいの好みなんか知りもしないのに、自己満足でやったこと。それなのに、「ありがとう」と言ってくれる。そのやさしさに、また胸がキュッと締まった。


玄関を開けようとした加野せんぱい。

その後ろ姿を見ていると、その大きな身体は一度ぴたりと止まった後、もう一度わたしの方を振り返った。


「…凰香ちゃん」


そして、そのまま頭に乗っかる、大きな手。


「…なんですか?」


よしよしと、しばらく頭の上で動いている手のひら。わたしの方をじっと見つめるせんぱいの表情は、イマイチ読めない。


「…んーん。やっぱり、凰香ちゃんがなんて言っても、今日の俺は大馬鹿だったなって思って」

「…せんぱい」


いいって、言っているのに。

それでも、こんなくるしそうな顔をさせてしまうのは、わたしが歳下だからなのかな。