「はい、加野さん。これで目を覚ましてください」
わたしは、鞄の中に入れていた栄養ドリンクを、加野せんぱいの前に置いた。これも、たまにわたしが勝手にやっていること。
「おお、ありがとう…。てか、いいのにこんな。嬉しいけど、お金勿体無いよ」
せんぱいは、いつもこうやって笑ってくれる。…少しだけ、申し訳なさそうに。
「勿体無いほど高くないですもん。それよりも、加野さんが倒れてしまう方が困ります。わたしが1年生10人を一人で持たなきゃいけなくなっちゃう」
「ははは、確かに。それは俺でもきついわ」
加野せんぱいと出会ったのは、ちょうど1年ほど前のこと。わたしが、「バイトでも初めてみようかな」って思って、この塾に来た初日に出会った。
塾の室長さんから、「加野くんと一緒に、1年生の担当をよろしくね」と言われて、一緒に1年生に授業をすることになった。その教え方とか流れを、加野せんぱいが教えてくれた。
ぜんぶ、こまかく、やさしく。わたしが、困らないように。
「でも、今の凰香ちゃんだったら、10人くらい相手にできそうなくらい、実力ついたと思うけどね」
「…まだまだ、ですよ」
こうやって、今も変わらずにやさしくしてくれる。笑ってくれる。わたしの面倒を見てくれる。
2歳年上ってだけなのに、すごく、大人に感じるよ。



