「…俺、本来はこーいう奴なんだよ、凰香ちゃん」
…せんぱいの声が、また震えてる。
さっきよりもくるしそうな顔。わたしを見る目は、悪いことをして叱られている子どもと同じだ。
「——君花のこと、生まれた時から高校の時まで、ずっと好きだった」
暗闇の中で響く、加野せんぱいの震えた声。
そして、それから紡がれていく、せんぱいのほんとうの気持ち。
「…高校の、時まで…?」
…そうなんじゃないのかな、って、思ってた。
真大さんの話とか、さっき2人に会った時の加野せんぱいの表情とか、突然こうやってわたしのところに来て2人から離れてたこととか。
そういうので、きみかさんとは何かあるんじゃないのかなって、思ってた。
「…生まれてから、ずっと気持ちを隠して生きてきた。君花のことを好きでいたけど、自分の気持ちを隠したまま、君花の代わりになる女の子と遊んでばかりだった。…でも、高校3年の時、君花に好きだって伝えた。でも、その時はもう、君花はヒロくんのことが好きになってて、2人は付き合ってて…俺は、振られた」
「…」
「…それから、今の大学に入った。時間をかけて、君花のことは吹っ切った。メールが来ても、電話が来ても、今日みたいにたまに会っても、大切だけど好きだって気持ちは、もう過去のものになってた」
「……うん、」
「…でも、さっき。唐突に結婚の話を聞いて、戸惑った。好きな気持ちは本当にないと思ってる。けど、どうしてなのか分かんないけど、すごく、戸惑って…」
「…うん」
左肩に乗って来た重み。少しだけ震えている肩。
それのすべてを、わたしに預けてくれている。
かっこ悪いところを、曝け出そうとしてくれている。
…そんなせんぱいを、こんな状況なのに、やっぱり愛しいと思ってしまう。
「…凰香ちゃんに、甘えてしまいそうになった。本当に、最低なことした」
「…」
さっきから、最低最低って、そんなことばかり言ってる。
加野せんぱいは、最低なんかじゃないのに。
せんぱいは、「余裕ないから」って、最初にちゃんと言ってくれた。危ないからやめなって言われたのに、それでもせんぱいに手を伸ばしたのは、わたしだ。



