だから、わたしにも気持ちを少し分けてよ、せんぱい。
「…ダメだって。今の俺、ちょっと色々混乱して余裕ないから。ほんとに、ちょっと…」
「加野せんぱい」
「…っ」
少しだけ歪んだ顔。油断した顔。
それが見えた途端に、加野せんぱいは手のひらで顔を隠そうとするから、それを制すように、せんぱいの手を握った。
…見えた顔は、やっぱり少し、くるしそうな顔をしていた。
「…せんぱい、嘘はダメです」
「…っ」
…なんとなく、せんぱいが考えていること、分かってしまった。
だって、せんぱいを一瞬でこんな顔にしてしまったのだから、原因なんてひとつしかないじゃない。
きみかさんしか、いないじゃない。
…でも、なんでだろう。
今までみたいに、大きな嫉妬心は不思議となくて。
それよりも、目の前のくるしそうな加野せんぱいを、どうにかしてあげたかった。
わたしにだけ見せてくれた、今の加野せんぱいを、大事にしたいと思った。
「…せんぱいのこと、本気で想っている人だって、いるんです」
目の前の愛しい人を、助けてあげたいと思った。
ただ、その想いだけしかなかった。
・
わたしがその言葉を呟いた途端、加野せんぱいはわたしの手のひらから鍵を取り出して、そのままドアを開けた。
わたしから繋いだ手のひらは、まだ繋がれたまま。
その手を引かれながら、家の中へ入っていく。



