瞬きもしないせんぱいの顔の前で、手のひらを振ってみる。
それでようやく、ハッとしたせんぱいは、そのままじっとわたしの方を見た。
「…あ、ごめん。鍵はあった?」
「…」
…やっぱり、元気がない。
さっきまでの加野せんぱいとはまるで違う。
そんな変化に気づけないほど、せんぱいのこと適当に見てきたわけじゃない。生半可な気持ちで想ってきたわけじゃない。
「…せんぱい、どうしたんですか」
…少しだけ、小さな子どもみたいになってしまったせんぱいを、わたしは今、放って家の中に入ることなんてできない。
そう、思った。
「…別に、どーもしない。寒いから、早く中に入りな…」
「…」
今度は、作り笑い。ヘタクソな笑顔。
加野せんぱいの自然体を見てきたからこそ知ってる。加野せんぱいは、困ったことがあるとわりと作り笑いで誤魔化そうとする。
「…せんぱい、誤魔化さないでください」
「何が?何も誤魔化してなんか…」
「誤魔化してます。わたしの目を欺けると思ったら大間違いですよ!」
隠せていないくせに、何かを隠そうとする加野せんぱいに腹が立った。そんなに頼らないのかと思った。
鍵を握りしめた手を、ドンっと加野せんぱいの胸に押し当てる。
「…わたしは、いつも加野せんぱいに助けられてるんです。助けられてるから、せんぱいが何か困ってることがあるなら、不安があるなら、今度はわたしが助けたいんです」
「…凰香ちゃ…、」
「ただ、それだけなんです」
歳下で、バイト先でも後輩で、頼りないのかもしれない。
それ以前に、加野せんぱいにとっての相談役にもなれないのかもしれない。
加野せんぱいにとっては、そんな、ちっぽけな存在なのかもしれない。
…でも、わたしの気持ちが叫んでる。
加野せんぱいを好きって気持ちが、加野せんぱいの心の奥にまでいきたいって、思ってる。



