午後3時、きみと夢のなか



瞬きもしないせんぱいの顔の前で、手のひらを振ってみる。

それでようやく、ハッとしたせんぱいは、そのままじっとわたしの方を見た。


「…あ、ごめん。鍵はあった?」

「…」


…やっぱり、元気がない。

さっきまでの加野せんぱいとはまるで違う。

そんな変化に気づけないほど、せんぱいのこと適当に見てきたわけじゃない。生半可な気持ちで想ってきたわけじゃない。


「…せんぱい、どうしたんですか」


…少しだけ、小さな子どもみたいになってしまったせんぱいを、わたしは今、放って家の中に入ることなんてできない。

そう、思った。


「…別に、どーもしない。寒いから、早く中に入りな…」

「…」


今度は、作り笑い。ヘタクソな笑顔。

加野せんぱいの自然体を見てきたからこそ知ってる。加野せんぱいは、困ったことがあるとわりと作り笑いで誤魔化そうとする。


「…せんぱい、誤魔化さないでください」

「何が?何も誤魔化してなんか…」

「誤魔化してます。わたしの目を欺けると思ったら大間違いですよ!」


隠せていないくせに、何かを隠そうとする加野せんぱいに腹が立った。そんなに頼らないのかと思った。

鍵を握りしめた手を、ドンっと加野せんぱいの胸に押し当てる。


「…わたしは、いつも加野せんぱいに助けられてるんです。助けられてるから、せんぱいが何か困ってることがあるなら、不安があるなら、今度はわたしが助けたいんです」

「…凰香ちゃ…、」

「ただ、それだけなんです」


歳下で、バイト先でも後輩で、頼りないのかもしれない。

それ以前に、加野せんぱいにとっての相談役にもなれないのかもしれない。

加野せんぱいにとっては、そんな、ちっぽけな存在なのかもしれない。


…でも、わたしの気持ちが叫んでる。


加野せんぱいを好きって気持ちが、加野せんぱいの心の奥にまでいきたいって、思ってる。