加野せんぱいの、横に垂れた手のひらは、何かを決めたように、ぎゅっと固く握られた。
「…そっか。じゃあ、詳しく話聞いてやんねーとな。特にヒロくんのプロポーズの言葉とか」
「ははは、そうだね」
「ぜってー話さねー。つーか、きみかも煽るなよめんどくさいから」
「ははは」
——ねぇ、加野せんぱい。
今、どんな顔してる…?
「んじゃ、これ俺の家の鍵だから。先に開けて入っててよ。俺、これからこの子を家まで送ってから帰るから」
「え…っ!?」
加野せんぱいは、わたしに顔を向けないまま、ぐっとわたしの手のひらを握った。
ていうか、家まで送るって、もうすぐそこなのに…?
「い、いいですよ、せんぱい!きみかさんたちと、そのまま帰ったら…」
「いーから。ほら、帰るよ」
「えっ…!?」
そしてそのまま、せんぱいはきみかさんたちを置いたまま、わたしの手を引いて歩き出す。
繋がれた手は冷たい。すっかり寒い空気にあてられて冷え切っている。
でも、大きな歩幅。まるで、さっきの場から逃げ出そうと言わんばかりの勢い。
「…せんぱい…?」
「……」
それでも、せんぱいは一言も話さずに、ずっと前だけを向いて歩いている。
…こんな強引なせんぱい、わたしは見たことがない。
突然、きみかさんたちから背を向けるなんて、どうしちゃったの、せんぱい。
・
アパートには、本当にすぐに着いてしまった。でも当たり前だ。さっきいた場所から1分程で着くようなところにあるから。
鞄の中から、鍵を取り出す。
ここまで来るのに、一度も話さなかった加野せんぱいは、わたしの方を見るわけでもなく、ボーッと別のところを見ては何か考え込んでいるようだった。
「…せんぱい?」
「……」
…加野せんぱい、どうしちゃったのかな。



