「…あれ、凰香ちゃん…?」
「…!」
室長のところに行くと言って控え室を出た。でも涙が出てきちゃったから、その近くで涙を拭っていると、ちょうど出勤してきた真大さんに声をかけられてしまった。
…あぁ、まだ鼻水がズビズビ言ってるのに。最悪だ。
「えっ…。ちょ、なんで泣いてんの…?」
びっくりした顔で近寄って来る真大さん。小さくボリュームを下げてくれているのは、きっとこの人のやさしさ。
「なに?朔太朗となんかあった?それとも、他に泣くようなことがあったの?」
「…っ、いえ、あの…」
…まずい。これはまずい。親友の彼氏に泣き顔を見られて気を遣われているというのは、ちょっとよろしくない。自分的に。
「…大丈夫、です。もう落ち着いたので」
「本当に?びっくりしたんだけど」
「…はい、大丈夫です。すみません」
顔を覗き込んでくれる真大さん。やさしい人。でも、真大さんをわたしの話に巻き込むわけにはいかないから。
結の、大切な恋人だから。
最後の涙を拭って、無理やり笑顔を作って真大さんの方に向けた。
…そうだ、ここはバイト先。これから加野せんぱいと一緒に仕事をしなきゃいけないのに、泣いてちゃダメだ。
ちゃんと、いつも通りにしなきゃ。



