せんぱいの顔が見れなくなって、いつものように栄養ドリンクだけを置いて、控え室を出ようとした。
せんぱいの顔を見たら、声を聞いたら、涙が出てしまうかもと思った。
「…ちょっと、室長さんに、質問することがあるので行ってきます…」
「えっ、凰香ちゃん?」
「…っ」
だって、もう聞かなくても分かっちゃったんだもん。
だってわたしはもう、せんぱいが大切にしている幼馴染が、女の人だってこと、知っているんだもん。
“ きみかさん ” が、せんぱいの大切な人だってこと、分かっちゃったんだもん。
…これって、告白する前に失恋したのと同じだよ。
ガタンと椅子を動かして、わたしの名前を呼ぶせんぱいを無視して部屋を出た。
やっぱり、予想通り温かい涙は涙袋のすぐ上まで登ってきていて、瞬きをしたと同時に頰を滑り落ちてきた。
「…っ」
今日、このバイトが終わったら、せんぱいは “きみかさん ” と会うんだ。
ふたりがどんな関係なのかはよく分からないけど、でも、わたしが入り込めないほど繋がりが強いのは確かだ。
「…っもう、やだ…」
それなのに、やさしい加野せんぱいのことが好きだと思ってしまう自分が嫌だ。
好きなのに、何もできない自分が嫌だ。
何も努力はしないくせに、こうして現実を突きつけられるたび、弱ってしまう自分が嫌だ。
わたしって、ほんと、わがまま。



