こうやって、あなたの寝顔を見つめるのは、何回目だろう。
「…加野さん、加野さん」
夕方だとはいえ、電気も付いていない控え室に足を踏み入れると、いつも同じ光景が広がっている。
これは、わたしがこのアルバイトを始めたちょうど1年前から変わらない。もっと言えば、初めて彼に会った時も同じだった。
「…加野さん、時間です」
白い大きな長テーブルに引っかかるようにして置かれている、その肩に手を置いてゆすってあげる。だけど、このくらいじゃビクともしないのが、この人の当たり前。
ふぅ、と息を吐いて、今度はその焦げ茶色の髪に触れてみた。いつ触ってもふわふわのそれは、小さく抵抗するようにわたしの手をくすぐってくる。
それでも、この大きな身体が動く気配はない。だから、わたしは向かい合わせになって彼の方を見た。同じ格好になってみる。
…でも、こうやって彼と同じ姿勢になって、いつもの寝顔が見られるのは、わたしの小さな幸せだ。
「…ねぇ、加野せんぱい」
人差し指をそっと伸ばして、ツンと頭頂部を軽くたたいてみた。「うん…」と小さな声が聞こえたと同時に、長いこと下敷きにされていたのであろう腕が、もぞっと動く。
それから次第に顔が上がった。おでこにペタリとくっついた前髪から、深い眠りについていたんだと分かる。