午後3時、きみと夢のなか



「…まぁいいよ。とりあえず真大は知る限りいい奴だから安心して。今日はアイツに送ってもらえるみたいだし。よかったね」

「———…」


——“ よかったね ”


…うん。よかった。たまたま結の家も近くで、そこに真大さんが行く用事があるからたまたま送ってもらえる。

1人で帰るのも心細かったし、加野せんぱいもこの後大学に行くって言ってるから、迷惑もかけない。

…だから、“ よかった ” んだけど。



「…加野せんぱい、」

「なに?早く書き終わらないと、真大帰っちゃうよ」

「…」


なんとなく、いつもより少しだけ、冷たく言い放ったような加野せんぱいの言葉が、いつまでも心に引っかかった。


…加野せんぱいは、いつもやさしい。どんな時だってやさしい。今まで、どんな失敗をしても、怒られたことなんて一度だってなかった。

むしろ、笑顔で励ましてくれることが多かったから、加野せんぱいのこんな顔を見ると、声を聞くと、少しだけこわくなってくる。


「…はい、すみません」


…たまに見せる、せんぱいの “ 影 ” の部分。
近寄れない、触れさせてくれない、そんなバリアが見える瞬間が、たまにある。


だから、わたしはせんぱいに、聞きたいこともこわくて聞けないのかもしれない。


なんとなく、わたしが今見ているせんぱいが、せんぱいの全てではないような気がしていたから。