大きな手が離れると、せんぱいは「ぼちぼち準備するか〜」なんて言いながら、背伸びをする。
まだ講師はわたしたち2人だけ。もう少しだけ、2人きりの時間は続く。
「ちょっと教室長と打ち合わせ行ってくる。今日のことで聞いておいた方がいいこととか、ある?」
「あっ、いえ。わたしは今のところ大丈夫です。すみません、ありがとうございます」
「んーん。いいから予習の続きしとけよ」
急いで机を立ったわたしを制して、加野せんぱいはそのまま準備室を出た。
最後に向けられた顔がやっぱりどこまでも優しくて、また思い出してきゅんと胸が鳴った。
せんぱいの気持ちに甘えて、そのまま机に向き直る。予習の続きをしようと、もう一度加野せんぱいのノートに目を通した時、その声は響いた。
「えっ!?うそだろ!?」
「…!」
…?
不意に聴こえてきた加野せんぱいの驚いた声。
準備室を出て、すぐのところでその声は響いている。
「…加野せんぱい…?」
少し心配になって、顔を出した。すると、その驚いた声は、今度は笑い声になってわたしの耳に届いた。
「なんだよ〜!来るなら連絡くらいしろって」
「…?」
何やら、誰かと話している様子。
顔だけじゃなくて、身体も完全に外に出してその様子を伺うと、加野せんぱいは見たことのない男の人と楽しそうに話をしていた。



