「今日って、バイトなんじゃないの?加野さんに会わないの?」

「…会うよ〜。また3時頃から」

「じゃあチャンスじゃん!聞いておいでよ!」

「…」


今日は月曜日。だから、加野せんぱいには会える。

土日明けは比較的休めて元気だと思うから、少しだけお話してみても大丈夫かな…。

でも、せんぱいが元気かどうかじゃなくて、わたし自身が、加野せんぱいに聞くこと自体が大きな壁であって。


「…聞きたいこと、ぜんぶ聞けてたら、こんなに悩んでないよ」


どうして、加野せんぱいにはこんなに臆病になっちゃうんだろうなあ。

やさしいし、お兄さんみたいだし、わたしの世話を焼いてくれる。どんな悩みだって相談だって言える。なんなら、冗談だって言える。

そんな人なはずなのに、肝心なことは聞けない。本当に知りたいことは聞けない。

だからやっぱりまだ、心の距離があるってことが身に染みて分かって、少しかなしくなるよ。


「でもさあ、凰香。恋は自分から動かないとうまくいかないよ?わたしだって、真大(まひろ)と付き合うまではそりゃあ大変だったんだから〜」

「結、もうそれ何十回も聞いた」



…今日、また会えたら少し話してみよう。

聞けるかどうかは別として、加野せんぱいと話したらきっと元気になれる気がするから。