わたしといても、たまに動き出すスマホ。せんぱいは、必ず躊躇なくその通話ボタンを押す。
「——はい、もしもし」
最近は、特に頻繁にかかってきているみたいだ。
わたしに背を向けて、その電話に出ているせんぱいを見ていると、また小さく胸が鳴った。
カバンから鍵を取り出して、自分の部屋に向かう。そんな時にまで聞こえてくる、加野せんぱいの声。
「———うん、ごめん。またあとでかけ直すから」
「…」
「…ごめんね、君花」
——— “ きみか ”
加野せんぱいの口から、時々出てくる名前。わたしと似ている名前。だけど、わたしより女の子らしい名前。
せんぱいにとって、その人がどんな人なのかは知らない。けど、わたしがいまいち、勇気を持てない原因の1つだ。
…だって、もし彼女とかだったら。
わたし、立ち直れない。
「ごめん凰香ちゃん。会話途中で出ちゃって」
「…んーん。わざわざ切らしちゃったみたいで、すみませんでした」
スマホを再びポケットに入れながら、わたしに近づいてくる加野せんぱい。
変わらないやさしいその顔は、今どんなことを考えているんだろう。



