それでも、いつかせんぱいと一緒に、美味しいご飯を食べに言ってみたい。バイト終わりの少しの時間でもいいから、わたしとせんぱいの2人の時間があったらいいのに、なんて思うんだ。
「…あ、そろそろ着くね」
街灯が少なく、月の光だけに照らされているような道を進んでいくと、そこにわたしのアパートがある。
「相変わらず、人気の少ないとこだな。1人で帰るときは気をつけなよ」
…あーあ。もう着いちゃったんだ。家までの道、もっと長ければいいのに。
なんて、言えないや。
「…大丈夫ですよ。せんぱい、絶対1人では帰らせてなんかくれないから」
「当たり前でしょ。大事なバイト仲間に何かあったら、シャレになんねーわ」
「…」
“ 大事なバイト仲間 ” かあ。
大きな手のひらが頭に乗っかった。
いつもは、小さな子どもたちを撫でている手のひら。わたしと別れるときは、必ずこうやって触れてくれる。
…まるで、妹を可愛がっているかのように。
うれしい。せんぱいに触れられるのはうれしい。頭を撫でられたら、きゅんとする。
でも、少しだけ切なさが残るのは、何故だろう。
「…早く、家に入りな」
「…うん」
きっと今せんぱいは、とびきりやさしい顔をわたしに向けてくれているよね。
でも、その顔がなぜか、見れないんだ。
「……っと、ごめん」
「…」
下を向いていると、せんぱいのポケットに入っていたスマホが震えた。
それと同時に、わたしに触れていた大きな手のひらも、離れていく。



