「加野せんぱい、この後はまた大学に戻るんですか?」


時計を見ると、夜の8時。わたしはこの後帰るけど、加野せんぱいはよくバイト後も大学の研究室に戻ることがあった。


「…いや、今日はもう家に帰る。ちょっとさすがに寝ないと死ぬ…」

「うん、それがいいですよ」


今日は、どうやら直帰するらしい。理系の学部は、よく研究室に泊まり込みだの、実験が忙しいだのレポートが鬼だの騒いでいるけど、本当なんだと実感する。

薬学部にいる加野せんぱいは、きっとものすごく忙しいんだ。

でも、大学に戻らない時は、こうやって少しだけゆったりと控え室で2人過ごすことがだきるから、ラッキーなんて思ったりする。

せんぱいは疲れてるのに、こんなこと思うわたしは最低かなって、思うけど。


「というわけで凰香ちゃん、今日は送ってくよ」

「えっ!?いいですよ!疲れてるんだから、早く帰って寝てください!」

「近いんだからそんな変わんねーよ。それより暗くて危ないから、送ってく」

「…っ」


…そして、もう1つラッキー案件。加野せんぱいは、直帰する時はいつも、わたしをアパートの近くまで送ってくれるんだ。

疲れてるのに。いつもそう。


「…ありがとう、ございます…。お礼に子どもの様子、全部あたしが書きます」

「まじで? 凰香ちゃん女神かな」

「ははは」


女神かな、だって。わたしは、加野せんぱいだからやっているだけであって、他の人だったら、こんなことしない。